字駄楽ト界

Life is a jest,

アルバイトの思い出

大学時代、集団塾・個別塾・家庭教師・チューターと一通りやったことがある。

集団塾は、大学に入った直後それまでお世話になっていた塾に就職し、ここに4年間勤めた。しかし塾業界というのは本当にレッドオーシャンで、学生という母数は猛烈に減っているのに教室の数は増え続けている。その荒波に抗えず、私の勤め先も途中に別の大手に統合されて個別指導塾になった。

家庭教師はあまりやっていない。大学2年に時間割の抽選がほぼ全て落選し、シフトの提出が遅れたせいで夏期講習でしかまともに働けない(集団塾の場合、通年のシフトは4月に決まる)ことになったため、大学近くの某大手に登録しただけだ。

そこで3カ月ほど働いたところ、個別指導形式の塾を開くのでそっちに移ってほしいとお願いされ、やっぱり個別塾とチューターをやることになった。ちなみにチューターとは質問受付係みたいなもんで、最低賃金で宿題を教えたり部活の困ったセンパイの愚痴を聞いたり修学旅行の班決めについて慰めたりのする。

 

ところで子どもを塾に放り込んで安心する親御さんに一言申し上げたいのだが、確かに、あなたに塾のシステムと合格率について説明をした室長はその塾の社員だ。
けれど、実際にあなたの子どもの面倒をみる「先生」は、概ねちょっと良いバイト代のために集まった大学生であって、成績の向上や進学には何の責任も負っていない。というか私の時代には賞罰ともになかった。
しかも、牛丼屋とかのバイト代もガンガン上がってるので、「ちょっと良いバイト代」というインセンティブすら薄れてきている。そこんとこはもうちょっと周知されていいと思う。

私がそんなアルバイトをしていたのは林修とビリギャルが流行っていた頃だった。だから塾講のバイトやってるんですーというとほぼ100%今でしょを強要されたものだが、現在ならイマハラと名付けられてただろう。

それにしてもビリギャルはホントひどかった。あれの正式名称は
(有名進学校で)学年ビリの(元から英語はかなりできる)ギャル(※表紙は別人)が1年で(壊滅的だった国語の校内)偏差値を40上げて(英語と小論文だけが試験科目の)慶應大学(のSFC)に現役合格した話、だ。
泥で汚れたダイヤが落ちてたので拭いたら光った、とかそういう話であって、決して、石ころも切磋琢磨すると宝石になる、という話ではない。

ドラゴン桜という先行事例があったせいで誤解されたが、やはりああいう中に何も書いてなくても売れるタイトルの本は真に受けない方がいい。

さて、私が最も長く務めることになった個別指導塾、というのは、ぶっちゃけ勉強できない子の駆け込み寺兼最後の砦のようなもので、中三の夏休みに分数の割り算ができないやつとかがザラにいる。

集団塾の頃は、入塾するにあたりテストを受けさせられたりと一応市内上位校を狙える子たちに向けた塾だった。それが個別になったとたん「いや、勉強嫌いなんで」と公言してはばからない子たちが大多数を占めるようになった。

ただ、そういう子にもすごい面白い個性があったりして、
例えば高校入学したら速攻免許取ってビッグスクーターパリピ仕様(LEDがビカビカ光って低音を増強した音楽が流れるタイプ)を買う、と息まく女の子はクラシックピアノに造詣が深く、次の発表会では雨だれのワルツを弾くそうだ。

いくら言っても一切宿題をやってこない上に悪びれもしない元野球部の坊主頭は、地元の祭りが大好きであと60回は出たいという。そんな彼に話を聞くと、もともと干鰯問屋として栄えていて頃の話から始まってそこらの観光本よりよっぽど詳しい祭りの歴史が学べる。

地域最底辺の普通高校定時制かを真剣に検討している暗めの女の子は、話しかけてもあまり答えてくれない、講師としては困るタイプだ。けれど映画が大好きで、時間とお金があったらツタヤの棚を端から端まで全部見たいという。最近見た中で好きな映画は、と聞くとLEON の面白さについて訥々としゃべってくれた。

共通しているのは、こういう話をするときの生徒は本当に楽しそうということだ。勉強を教えているときはゾンビの方がまだ顔色よさそうなもんなのに。

彼らは勉強というものさしで測ると最下層のグループでしかなく、現状こういう個性を公的に伸ばしたり、活用したりするすべはない。
(Youtuberやらなんやらは、それをマネタイズできる、という極めてまれな才能を持つ人に限られる。 好きなことで、生きていく、の罪は深い)

他の生徒も、もちろん自分の人生を15年生きているわけだから、その人だけのめっちゃ面白い個性を持っているのだろう。

勉強を教え、志望校へどうにか放り込むことを旨とするひとりの塾講師としてはどうしようもない。たぶん学校の先生にも、進路指導の先生にすらどうしようもない問題だ。

でもこれ、どうにかならんかなぁ。というか、なんとかせねば、と思う。

そんなとりとめもない思い出ばなし