字駄楽ト界

Life is a jest,

ラストワンマイル

この単語は、もともと通信業界の用語だった。
wikiにはこうある。

通信事業者にとって、幹線を延伸拡充することに比してそれらを利用者(利用場所)まで分岐敷設することは多大な原価や資源を要する。 この原価・資源を要する問題を指す用語として「サービスが顧客に到達するための最後の区間」という意味で「ラストワンマイル」という名前が付いた。由来は加入者局から顧客の建物までの距離が平均的に約1マイル(=約1.6km)であることによる。

それが、運輸業界でも同様の問題が見られることから、この単語を転用した。

容量の大きい貨物駅 または港に到着した物は、その後最終目的地に輸送しなければならない。サプライチェーンにおいてこの最終区間は効率性に劣ることが多く、物流にかかるコスト全体の28%までを占める。

だがこの単語、もっと広い範囲をカバーできると思う。 具体的に言えば、スケールメリットが及ばない、どうしても個々の状態にアジャストした作業が必要な部分を指す言葉として。

例えば、少し前にスマート家電がぜんぜんスマートじゃない、という話を書いた。 これは何も私だけの意見ではない。なにせ、現状ありとあらゆる家事を行っている母親がスマート家電に一切興味を持っていないのだ。
(なんかの折に贈ろうとした)

これがすべてを表しているのではなかろうか。CMですら、Alexa が活躍するのはレゴで物理的に足の踏み場がなくなった家に限ると宣伝している。
もし家電がスマートと名乗りたいのならば、少なくとも玄関を閉じたあと、自動で洗濯し、乾燥し、それに必要な洗剤の投入であるとか詰まったフィルタの掃除を自動で行わなければならない。また自動で掃除し、それに必要なセットアップを行い、結果集めたごみを所定の場所に捨てなければならない。

しかし、家電においてこれを解決するには、住宅の構造や行政システムまで巻き込んだ抜本的な構築が必要だ。住んでる家の内のラストワンマイル。ワンメートル、だろうか。

星新一の時代には、例えば都市中に空気圧で動作するパイプを巡らせ、人間と同じ形をしたロボットが人間と同じ動きをすることでこの問題を解決した。

天井にレールを走らせ、でかい汎用アームロボをぶら下げて家中のオブジェクトにRFIDを取り付けるのは、伊藤計劃がハーモニーで提示した未来だ。

こういうマクロなレベルでの解決策が必要にも関わらず、それを見ないふりして、ありとあらゆる家電メーカーが能天気に「えーあいときょーちょーするすまーとなかでん」による未来を謳っている。
しかし今のところどれも自社のエコシステム内でゴニョゴニョやるのに精一杯で、だから私はこの現状が絶望的につまらないと思う。
というより、このラストワンメートルをどうにかしない限り、キャズムを超えられないだろう。

ただ、好きなブランドの贔屓目だが、もしかしたら住宅地の造成から設計できるパナソニックならばちょっとうまいことやってくれるかもしれない。この前パナのでかい工場に行ったとき、その敷地内にポツンと立つ一軒家を目にしたのだ。
一つ一つが体育館くらいあるトタン仕上げのプラントに囲まれたその住宅は不思議な空気を放っていたが、きっとその中では給湯器スイッチ内のボタン電池までがパナソニックのブランドで統一され、ステキな(、けれど実現するとは思えない)機能が満載された家電が、使う人もいない中動いているのだろう。